座談会 インターモーダルとITS(No.7)
自動運転と交通管理


○赤羽委員長 では、ここからはフリートークにしましょう。
 1つは、ITSは、最初は完全自動運転というものが華々しく目標として掲げられたのですけれども、人によると、それは30年後じゃないかとか、30年かかっても無理じゃないかとか、要するに近い将来実現することがなかなか難しいことがわかってきたので、その前の段階で、将来は自動運転に組み込まれるであろう技術、個別の技術を、そこまで行かない段階で道路交通の円滑化とか安全の方に適用していきましょうということになっているんですよね。
 完全自動運転になったら本当に車が鉄道に取って代わるのかどうかわかりませんけれども、少なくともその前の段階では、いろいろな移動のニーズがあって、鉄道だけでも車だけでもそのニーズは必ずしも完全にカバーし切れない。人あるいは物の移動を最適化するためには、いろいろな交通モードが組み合わされる可能性が確保されなければいけない。移動主体は、そのいろいろな組み合わせの中から最適なものを選択できる、ハード屋的にもソフト屋的にもそういう環境が望ましいんじゃないかというのが、少なくともこの辺の人間の認識で、それは荻野さんも同じではないかと、今の話を伺って思いました。
 技術的にどんなことが必要かを考えると、例えば車で首都高を移動中に事故渋滞が発生した。車を捨てて、とにかく目的地になるべく早く到着したいというときに何が必要かというと、最寄りの首都高の出口はどこで、その出口の近くに時間貸し駐車場があるかないか、それが空いているか、予約ができるなら確実にするためにそこで予約したい、その駐車場に行くための経路も知らなければいけない。それから、駐車場に車を置いたら、その駐車場から駅への歩行経路も知りたい。電車に乗ったら、今度は鉄道の経路がどうなっていて、それからダイヤ、つまり自分が目的地に着きたい時間に間に合うかどうかということも、「車を捨てる」という選択をする前に、車に乗っている間に知りたい。知った上で、車を捨てるか、それともこのまま行くか決めたいと思うわけですよね。今の情報環境はそれに応えてくれない。
 もう一つ、この図の鉄道路線は山手線と中央線と東急東横線で、この黒い線は環八です。環八と東横線が交差するこの辺りにいて、環八と中央線が交差するこの辺りに移動するときに、鉄道だと一旦東横線で渋谷まで出て、山手線経由で新宿まで行き中央線の下りに乗り換えることになる。鉄道の環状線がないからです。バスはバスで、この郊外鉄道で扇形に区切られているエリアで路線が閉じていて、鉄道路線で系統が寸断されているんですね。面倒な乗り換えなしで、あるいは少ない乗り換えで行ける路線がない。
 それから、バス停から目的地までの歩行経路もわからないし、鉄道の駅からの道のりもわからない。到着時刻とか運賃とか、それからバスや電車がどのぐらい混んでいるかも知りたい。例えば、駅間の移動については、ウェブページのたとえば「乗り換え案内」で、到着時刻あるいは出発時刻を指定して、駅の名前を入力してやれば経路情報を無料で教えてくれる。しかし、地下鉄の虎ノ門駅からこの座談会場の商工会館までの歩行経路は、少なくとも駅間の経路情報と比較して、その情報の取得がかなり困難です。
 例えば「乗り換え案内」なら、鉄道の駅間の連絡がどうで、その上をどういうダイヤで列車が運行されているかという、鉄道システムで閉じた情報を管理すればいいですよね。ところが、歩行経路を案内するとか、どこかでパーク・アンド・ライドするというようなときに、徒歩や車の経路と接続しようとしても、現状では多分、例えばカーナビの地図データベースと鉄道の路線図みたいなものとは電子的に組み合わせられないでしょうね。
 それから、さっき、投資をどう正当化するかという話があったんですけれども、交通情報というのはなかなか利用者が買ってくれない、システムが回るような値段をつけてくれない。というのは、これは私だけの理屈かもしれないのですけれども、交通というのはそれ自体が目的ということはほとんどなくて、何かほかの目的があって、それを達成するために「しようがなくてする行動」である。「しようがなくてする行動」を最適化するということに余りお金を払ってくれない。どちらかというと主目的に付随する形で、「おまけ的に」、目的地まで行くのにより良い経路だということで、ちょっと色をつけてお金を払ってもらうというふうにしないと、交通情報にお金が集まらないのではないかと考えています。
 もう一つは、例えば道路の管理主体とか鉄道の管理主体がインターモーダルな情報を流すということに関して、メリットを感じてくれて、あるいはそういう評価をしてくれて、そのための投資をするということは結構難しいことではないかと思います。最初のお話のように、鉄道関係者の中には「ITSが進展すると道路に鉄道のお客さんをとられてしまうのではないか」というような懸念を抱く方もいらっしゃるようです。要するに、最初から自分の領域が侵犯されるか、拡張できるかといった視点しか、両岸の人々が持っていない。両岸から海を埋め立てて相互に乗り入れするような発想が、道路と鉄道間で発生するかは疑問です。
 私は、「サードパーティ」の方が可能性があると思っています。「サードパーティ」、例えば「国内線いっぱつ空席照会」というホームページがあって、出発空港と到着空港、何月何日の何時ぐらいに発着する便だと指定すると、その設定のまま国内航空3社のホームページを一度に開いてくれるんですよ。そうすると、ANAで行ってJALで帰ってくるというような選択が面倒なくできるんですよね。実はこのページは、国内航空3社が話をつけて共同でつくったのではなく、ある個人がボランティアで立ち上げているページらしいんですよ。
 ですから、もしかするとボランティアではなく民間の第三者的な機関が、道路と鉄道のオープンにされている情報を接続・統合して提供し、例えば広告収入でコストを回収して利用は無料でとかいったサービスが実現してくるのではないかと、期待しているのです。

○荻野 まさにに、私の先ほどのプロバイダというのはそういうイメージです。そういうものが出るだろうと思っています。しかし、やはり残念ながら、今あるやつを使う程度のことしかできないんじゃないか。これだけのインフラをつくればバーッと出ると思うんですけれども、それをつくるだけの、ジャスティフィケーションというんですか。だから「案内」と言わなかったのもそこにあるんです。あくまでも、切符や何か全部……

○赤羽委員長 「管理」しましょうということですね。

○荻野 ええ、もう下の方は全部とっちゃいましょう、それはもう要りませんと。それは案内じゃなくて、案内というのは移動契約の基本なんだからということで、ですから、これからはこちら側のシステムが全部カバーしますからと言うんですけど、正直なところ、それでもちょっと難しいだろうなと感じておりますね。

○赤羽委員長 「タグ」は、要するにトラッキングするための、あるいは情報を相互に交換するための手段ですね。

○荻野 そうです。
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