ITSのある生活(No.4)
IT業界における「システム」思考・「システム」づくり / トヨタシステムに例を見る

○三浦
専門性が違うので誤解しているかもしれないですが、非常に今のお話は興味深くて、きのうも某IT系企業の方にヒアリングした話と非常に近いなと思っています。
私は去年、松下電器さんから仕事を 1,000万円もらいましたけれども、ことしは全然もらっていない。それどころじゃないわけですね、2,500億円の赤字ですから。(笑)
松下さんの経営が私の経営にも影響しているんですが、要するに何が言いたいかというと、物はやっぱりお金にならない時代になっちゃったということですね。きのう会った会社の方も、物をいくらつくっても儲からないという話をしていた。ではどうするかというと、単品で売るのではなく、一個一個のものをつないでいってシステムにして、そこで儲けるような仕組みをつくらなきゃ、結局全部ユニクロ化して、価格競争になればデフレになっちゃう。
それは私なりに文化系的にもう一度わかりやすく例えると、風邪を引いたから薬屋に行って薬を買う。あるいは医者に行ったら薬をくれた。それでおしまいなら医者は儲からない。その医者は、もし金儲けしたかったら主治医になる。「風邪を引かなくても毎月来い」と。「それで必ず治療していって、風邪を引かない体質にしてあげよう」とか「いろいろな日常的に服用するべき薬もあるよ」とか、そういうふうにコンサルテーションしていくとお金が取れるわけですね。実際私はぜんそくもちなものですから主治医がいて――ぜんそくなので車に乗らないんですけれども――毎月通っているので、1年で10万円その医者に払っています。体質は確かに少しはよくなっているわけですね。
それを単に対症療法でベンザを買ったりルルを買ったりしていても、単に薬を出すだけの医者なら大して儲からない。だからまたIT業界に話を戻すと、恐らく日本の企業は、そういう物だけじゃどうしようもなくて、システムとしてお付き合いしていってという形になっていかなきゃいけないみたいなことをされていました。
彼は、そのとき引き合いに出したのは、やはりまさにIBM。IBMは90年代前半に相当悪い状態になったけれども、いわばシステムコンサル屋さんというんですか、私は専門外なのでよくわからないんですが、要するに物を売りっぱなしじゃなくて、お付き合いしていく会社として社員教育をすべてやり直して、今は非常に業績がいいし、いろんな世界初という発明も毎月出てくるようになったんだそうですね。その辺はNTTさんの方がお詳しいでしょうけれども、かつ、そうやっていくことによって、サーバーはIBMを使わないとどうしようもないものになっていったとかですね。
要するに物があって売りっぱなしじゃなくて、まずシステムをつくっておいて、かつその会社のものを使わざるを得ないようになっていくという、そういうふうに、ある意味では絡め取っていくような、そういう商売をうちもしないといけないないと、某IT系企業の方はおっしゃっていました。
それを車に置きかえたときも似たようなことが言えて、私のように免許のない人間も宅急便は毎日使っているわけで、車の恩恵をこうむっている。間接的に車を保有しているのと同じです。それまで含めると、自動車ということでいえば1人1台持っている状況ですよね。自分で持っていなくても、人が持っているものの恩恵をこうむっているという意味では、今8,000万台で、免許取得可能な人口1人1台あるのと同じなんですが、でも、この車という物も、私のような世代は欧米の車によだれをたらしたという経験がありますが、今はもう「車なんてどこにもあったよ」という世代なので、車に関心が無い。若い人の免許保有率自体が落ちている。
それはトヨタにとってもどこにとっても大問題なんですね。でも、考えてみれば、もう1人1台あるんだから、これ以上もう増やせないわけですよ。そうなると、どう付加価値の高いものをつくるかということもあるけれども、もっと別の視点があるだろうと。
特に、今の若い世代ほど「車に何百万もかけるのはばかみたい。携帯の方がおもしろいや」みたいな価値観があるので、実は、今までは150万の車だった人を300万にさせるという意味での付加価値のつけ方は難しい時代になっているんだと思うんですね。
そのときに、もしトヨタだったらどう考えるだろうというふうにいつも想像するんですけれども、まさに交通システムを売っていくというか、車1台1台は100万でもいいし、あるいは私有財産でなくてもいい。公共財でもいい。
例えばそのシステムごとある自治体に売るとか、東京23区内のトヨタシステムが使えますという売り方をしちゃうと。もちろんトヨタの車じゃなくても走れるんだけど、トヨタの車で走ると一番いいみたいなことが――わからないですが、例えばそんなようなからくりをつくっていかないと、やっぱりだんだんと尻すぼみになっていく。
人口は減っていくわけですし、生産年齢人口も減っていくわけだし、車をバリバリ運転する人は減っていくと考えた方がいいわけですね。
私、今「東京の散歩」という本を企画しているので、歩いた道をつないだら23区内が全部つながっちゃうぐらいひたすら歩いているんですが、そうすると、すごく散歩している人が多い。
きのうも深川へ行ったら、11時半からもう深川飯のお店は満員。みんな60代です。高齢者の資産は何百兆と言われているけれども、松下何とかの製品は買ってくれない。車ももうクラウンじゃなくてヴィッツでいいやということになっていて、じゃ、余った金で何をしているかというと、深川で御飯を食べていると、そういう時代になっているんですね。そうすると、まさにここにも書かれたけれども、やっぱり車というのは私有財のシンボル。車で走るということも、まさに自分のプライベートが豊かになったことの象徴だったと思うんですが、そういう価値観はもう通用しない。それではもう売れない。高齢者も若い人も100万円で実用的な車しか買わなくなるかも知れない。今の我々世代ぐらいが「やっぱり高級車がいいね」なんて言う最後の世代かもしれない。
いずれにしろ、販売台数×価格=売上とういう意味での市場規模は減っていくと考えた方がいいんだろうと、恐らくトヨタはそれぐらい考えている。
だから、じゃ、どうするのといったときに、もちろん中国市場もいろいろあるんだけれども、日本国内においてはトヨタシステムなるものをつくって売っていくというようなことを考えているんじゃないかなという気がしているわけですね。そんなことを長谷川先生のお話を聞いて思いました。

○長谷川
ちょっと今のに対して私も追加させてください。私、今の三浦さんがおっしゃっているのはまさにそうだなと思うんですね。
トヨタというのは非常に特徴のある企業で、あそこは1つのコンセプトを非常にしっかり社内に持った企業だなという感じをすごく私は受けるんですね。これはこの間、小出さんの我々の研究会でのご発表だったと思いますけれども、はっきりおっしゃっていたのが「トヨタはもはや車のメーカーではありません。トヨタは総合モビリティー企業です」と。つまり、人、物、情報のモビリティーに対してシステムを提供する企業であって、単なる車のメーカーではありませんとはっきり言っていましたね。ITSに対してもはっきりした1つのコンセプトを持っていらっしゃって、古い狭義のITSというのは、人と車と道路を3つ三角形の頂点に書いてITでつなげたものがITSだという、これは古い、あるいは狭義のITSだけど「そうじゃないんだ。もう総合モビリティーに対して考えていくのがITSなんだ」ということをはっきりおっしゃっていましたね。
それから、高級車のことについてですけれど。前にモビリティー2010で私も回答させていただいたのと全く同じで、成熟社会になってきて、みんなそれぞれが自分らしさみたいものを大切にするようになっていくと、統一的な価値観がなくなってくる。そうすると、いい車が買えるから収入が大きいんだよというような車をステータスにするような人は一部は残るけれども、それはマジョリティーではなくなる。
おそらく移動手段の1つとして、中には従来からのモータースポーツとしてのものに興味を持つ人、いろいろな価値観が出てきて、成熟社会になればなるほど、そういう傾向が出てくるはずだという回答を私はさせていただきました。
今まさに三浦さんがおっしゃられたことも本当にそうだなという感じを、私も同意見だなというのを改めて思いました。

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