ITSのある生活(No.8)
「情報化時代のパラドックス」


○岡本
 経済立地論に「情報化時代のパラドックス」というのがあるんですよ。
 要するに、情報化が進めば企業の立地が分散すると言われてきたけど、実際は情報産業自体が集積しているのはなぜか。日本だったら東京、しかも東京の中でもビットバレーと呼ばれる渋谷界隈に情報産業、特にマルチメディア産業が集中しています。結局それは、情報化時代になるほど、さっきから出ているインフォーマルな情報というのが重要になるからです。
 このことは80年代の東京一極集中のころから政府白書なんかでも言われていたことで、当時、東京一極集中を特集した国民生活白書でも、情報化が進んでフォーマルな情報がどこでも手に入れられるようになると、かえってインフォーマルな情報の価値が上がって、それを求めて企業が東京に集まってくるんだと説明してありました。当時はインフォーマルな情報というのは霞ヶ関に行って、何となく役人の顔色を窺ってという話だったから、その後、規制緩和とか情報公開の必要性がというのが盛んに言われるようになったわけです。
 しかし、近年になって「情報化時代のパラドックス」に別の側面も加わってきた。情報化時代になって、知的所有権やビジネスモデル特許をめぐる訴訟が急増し、弁理士とか弁護士、経営コンサルタントの役割が非常に重要になり、そうした方面の優秀な人材のいる場所を企業が指向するようになったわけです。
 それで、いわゆるフェイス・トゥ・フェイスで何をやっているかといったら、情報を交換していないんですね。信頼感を醸成しているわけですよ。情報交換はあとでインターネットでやればいいし、電話でもいいんだけれども、こいつは信頼できるやつかどうかは会ってみないと分からない。そして、そのあとも年に何回かは信頼感を保つために会う必要が出てくる。
 それから、ちょっと郊外の話が出てきましたが、社会学の人で、「チエン社会」を昔は土地の「地」という字を使って「地縁社会」と書いたけれども、今は「知」という字を使って「知縁社会」と書けると言った人がいます。アメリカの郊外化に関して、エッジシティ・プロブレムというのがありますが、エッジシティというのは、郊外にオフィスや商業施設が集積してあたかも別の都心地区ができてしまうような状態のことです。
 企業が郊外に出られたのは、それなりに情報環境が整ったからなんですが、その郊外間、エッジシティ間を、今までの公共交通なんかとは全く違うパターンで人々が動き始めた。それを企業の勤め人だけじゃなく、普通の人もやり始めたわけです。それはなぜかというと、コミュニティーのしがらみとか、距離の制約を人々が考えなくなってしまったからです。
 例えば自分の子供がどこかお習い事に行きたい。そうしたら、自分の家の近くを探すわけじゃない。インターネットで調べたり、知人に聞きまくったりして、とにかく自分の子供に一番合っていそうな教室だったら、ものすごく遠いところでも子どもを車で連れて行くわけですね。もう移動に関しての距離というものを余り考えなくなってきた。地縁でなく知縁です。
 それによって、エッジシティ・プロブレムの一つとして車の排気ガスの問題、つまり、アメリカでは中心部より郊外の方が、大気汚染がひどいという問題が起こってしまった。
 だから私には、情報と交通が代替関係になるというような議論は疑問で、そうした議論がそもそもどこから出たのかの方が不思議な感じがするぐらいなんですけれども。

○吉開
 それは私もよくわからないんですが(笑)、何か要するに移動しなくてもいいんじゃないかと、みんな連絡をとり合ってやれば、それで済むんじゃないかという話だったみたいなんですけれどもね。

○赤羽委員長
 テレビ会議とかね。

○岡本
 それはITSが出るよりも前からなんですか。

○吉開
 もう1900年の当初から。
 事実幾つか、町のローカルなデパートがつぶれて、アメリカだとサンフランシスコとか大都市の方にみんな集まっちゃって、要するに「あそこの商店にはこういうのがあります」という情報が行っちゃうから、いいところだけみんなが集まるようになっちゃう。そうすると中間の商店街なんかがつぶれちゃうということで、その商店街の人たちが「こういうことがありまして」ということで話をしたみたいなんですよね。

○森川
 最近では政策的に、例えばカリフォルニアにおいて大気汚染がひどくなったときに、一体どうやったら車を減らせるんだというときに通信で代替して、テレコミューティングみたいなものをすればこれが減るんじゃないかというようにですね。需要予測というよりは、こうなってほしいという、そういう要請から通信による交通の代替というのが出た面がありますね。
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