シミュレーションモデルでどこまで予測できるか?

by Eiji HATO Date: Sat, 10 Apr 1999 20:50:27

羽藤@愛媛大です。

先日、ITS研究委員会の方で、細かなモデル談義もOK との許可が部屋主と委員長から頂きました。さっそく 蛸壺??議論を展開しようかとも思ったのですが、織田 さんの意見が、実務の技術者と交通工学の研究者のギ ャップを指摘する興味深い話ですので、この意見につ いてレスさせて頂きます。

織田さんの発言は以下のような問題提起をしておられ るのでは?

1.シミュレーションといっても仮想の状況であって、 現実をどこまで再現できているのか疑問?
2.現実の交通では、交通状況は均衡に達しているよ うなケースが多いのでは?

2.については、もしそうだとすると、交通情報による ネットワークの改善代はたいへん小さなものになると いうことになります。

情報提供システムを税金を使って整備することの意味 は、情報をドライバーに提供することでトリップの時 空間的な再配置による渋滞緩和が大きな目的であると 思います。

既に交通が均衡に達して、所要時間が同一ODについて 各経路で等しい状況であれば、情報提供によって需要 の平準化が実現することなく、情報提供システムに対 する投資はあまり意味のないものになるではないかと いう疑問が湧きます。

ホントのところはどうなんでしょう?重要なところだ と考えます。

で、 1.については、まったくその通りでアタマの痛い問 題です。現実はホントは複雑です。にもかかわらず 理論モデルにしても、シミュレーションにしても現実 のドライバーの反応の違いや混雑フローを完全に記述 できているとはいえません。

あるシステムの有効性を科学的に評価しようとするな ら、そのシステムの本質的な部分がモデルにおいて表 現できていなければ、意味のないものとなります。

情報提供システムを税金の一部を使って整備すること の意味は、社会的な便益があるからで、渋滞改善効果 を評価しようとすれば、その効果を生み出す基本とな る部分は、情報に対するドライバーの反応(経路選択 結果)の部分でしょうし、この部分がモデルシステム において十分に記述できていなければ、その評価結果 はきわめて疑わしいものとなります。

そういったことを織田さんは指摘されているのかなぁ と思います。

シミュレーションモデルや理論モデルで、でてきた答 えは、あくまでベンチマーク的な解にすぎません(1)。 ある仮説に基づいたモデルで交通現象を記述すると、 こんなになるという程度のものです。で、実際にはこ ういう部分はモデルでは捨象しているので、そのこと を割り引いて考えてくださいというExcuseが必要かも しれません。 予測技術の精度や範囲を理解してモデル を取り扱うことが重要ということでしょうか。

このように、現状のモデルにある種の問題点があるこ とを認めた上で、そもそもモデルでどこらへんまで予 測できるのか?赤松さんのそもそもの問題提起につな がりますが、こここのところを議論しないといけない んじゃないかと思います。(以下は少し蛸壺に入って しまうようで恐縮ですが。。)

ホントに人の行動は予測可能なのかという点です。

○ 既存の行動モデル(合理的な行動モデル)で何が問 題か?そしてこうした問題は解決可能なのか?
○ モデルの積み上げで道路交通システムは本当に解析 可能なのか?

ホントに長い文章になってごめんなさい。 ではでは。

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(1) モデルの仮定が規範的である理論モデルでは、そこ で得られた解について、ベンチマーク的な解として用 いることに異論はないかと思います。一方シミュレー ションモデルは、記述的なモデルの組み合わせである ため、モデルの中身が開発者以外に見えにくいといっ た欠点もあります。こうした場合、シミュレーション で得られた結果は必ずしも参照点としての役割を果さ ない恐れもあります。

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