3 VICSビーコン網の遺物化を防ぐには

○倉沢 VICSビーコンアンテナ注(5)は何年かの間で1千億円もの巨額をかけて大量に立てられて,そのお陰で情報提供がピンポイントでできるようになり,またFM波でどこでも情報が得られるようになりましたが,今のところ投じた巨費に対して余りネガティブな話になっていません.ITS全般に共通してそうなのは,行政発のITSと企業発のITS の両方の情報では受け手が具体像を結ばない,ということが問題だと思います.
 行政発のITSの考え方や描いている社会の姿が,余り消費マインドを高揚させる話にはならずに都市インフラや道路インフラとして整備するので(そうは言わないけれども)税金を払って下さい,という話の構造になっています.一方で,トヨタや松下など各メーカは何かの商品を買うことで実現する世界をITSとしてアピールしていて,これを無理やりITSと呼んでいるように感じます.同じ言葉を使っていても,それぞれがアピールしているものの文脈が全然違うので,悪く言うと受取り手がごまかされる気がしてなりません.受益と負担,税金を払ってもたらされるものやある端末を買って自分にもたらされるものがやがてクローズアップされるでしょうが,兎も角何とか今ポジティブに動いているITSに対する一般的に捉えられ方は大事にしたいと思います.VICSビーコンアンテナ不要論もあるでしょうけれども,せっかくアンテナが立っているですからまあ使わない手はないと思うのです.別の種類のアンテナが必要だとしても,とりあえず「ある場所に柱が立っている」わけで,何か違う情報提供のインフラにできればいいと思います.
 一方i-mode版AITSが爆発的に普及したのは,携帯電話がこれだけ急激に普及して「手持ちの携帯電話で少しくらいの追加料金を払えば受け取れる」という点が原因だと考えられます.携帯電話をカーナビにつけて情報を受け取ったり返事もできるようなサービス注(6)が,全然普及しないのはコンテンツが無いからではないか,と当事者から随分悩みを聞かされましたが,要するに車に取り付けるのがとても面倒くさいといった障壁の方が本質的な問題だと思います.つまり,i-mode携帯電話のおかげで,情報を得るためにわざわざどこかへ出かけて何かを買うことが面倒くさい,というような消費マインド・風潮になってきていて,その中に交通情報の採算性や支払い感覚の新しい表現の仕方が出てきたように思います.裏を返せば,サービスの料金は,一定の枠の範囲内にあれば,10円や20円はあまり問題ではないと思うのです.
 いろいろな種類の電波でITS関連の情報を伝える方法が技術的に検討されているようですけれども,今せっかく途切れない電波を発信できるVICSアンテナの柱というインフラがあるので,ピンポイントの情報提供ができるメディア,例えば「この先渋滞で詰まってるからこちらに寄り道すると今このスイカが500円が200円になるよ」といった情報提供をすればいいのではないでしょうか.携帯電話の基地局は全く民間需要ベースで 500メートルから3キロおきぐらいに立ってますので,これとVICSをうまく組み合わせてうまく利用者が誘導されるような可能性を検討したほうがいいように思います.
 交通情報そのものは面白おかしくする必要はないですが,気の利いた交通情報にすることが重要です.双方向で車からも情報を返すことのできるアンテナを柱につけることができれば,デルファイ式交通情報の可能性もあるように思います.デルファイ式とは調査でよく用いられるもので,「10年後には何は何億円で,ITSは何兆円市場になっていますか」と有識者に尋ねてその有識者の答えをもう一回整理し,「あなた方の第1回目の回答はこうでしたが,これを見て何兆円になると思いますか」と何度も何度も聞いて,だんだん収斂していくという,未来予測の手法の1つのアンケート調査です.こういう形で,「あなたは次にどっちへ行きたいのか」を聞いて,その結果「だから1時間後はもっと渋滞します」とか,「この渋滞は1時間くらいしたら解消するでしょう」という,ある種の交通予報の1つに利用できる可能性があるように思います.柱につけるアンテナの機能次第ではこうした予報もできるようになるのではないでしょうか.そのときに,交通予報のようなことをだれが認めるのか,警察が許してくれるかどうかはキーポイントとなるでしょう.

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