9 あなたのためだけの情報収集エージェント

○本多 私が昔VICSのビーコンの情報を考えたときに,情報板注(10)やハイウェイラジオなどの路側放送注(11)と,ビーコンのスポット型の情報で何が違うのかを考えました.情報板は確かにその場所にあるのですが,いろんな人が同時に見るので,かなり広範囲の情報を出さなければいけません.しかしスポット型のビーコンでは車載機がデータを受けて自分で処理するため,ドライバー一人一人の個性に合わせた非常に絞り込まれた情報になり得るだろうと考えました.ただ,VICSの場合は交通情報しか扱いませんから,その個人に近い情報はそれほど絞り込めるものではありませんでした.
 さきほどの地図の話にも同じようなことがあって,駅を降りて,歩行者の目線で見て,みんなが見てわかるものというのは1つの市場としてあるだろうし,一方でさらに何か端末を利用する場合,その端末にその個人の個性や特性を覚え込ませておいて,情報を自分の使いやすいように勝手に加工して利用者に見せる.例えば「食べ物屋ばかり探してるので食べ物屋の看板だけ見えればいい」という人にはそれだけの案内ができるような,そういうエージェント機能のようなものが組み込まれた端末がやがて出てくるでしょう.

○森川 だれも見たくないような広告・宣伝が街中に沢山あるのではなくて,そういうエージェント機能が非常に発達してくれば,自分の端末だけに自分の欲しい広告だけが,それがまたランドマークになって手に入る,という風になってくれば便利ですね.

○中島 それは地図情報でも可能ですよね.レイヤーが深ければ自分の好みで選択できるわけですから.

○本多 そういうエージェントソフトが出てきてこれを使いこなす利用者層が出てくる一方で,そのような面倒くさいことをしたくない,あるものが見れればいいという利用者層と,両方の層が残るような気がします.

○倉沢 それだけの情報の後処理をするには,機械任せというわけにもいかないでしょうから,やはりだれかが集めてくる必要があるでしょう.デジタルだけどアナログな部分をだれが支えるのかが非常に難しいように感じます.しかし,天気情報注(12)があれだけ頑張っているようにやり方はあるのです.ただ,交通情報に関しては,料理の仕方とやっていいことと悪いことの境界がまだ釈然としない部分があります.

○赤羽 少なくとも例えば交通情報に限っても,公共機関が持っている情報をそのまま提供していたのでは,今のお話のような気の利いた・使い勝手の良い情報にはならないということは言えると思います.
 例えば,移動中の人を追いかけて,事故による渋滞が起きていたら,どうしたらいいのかを教えてくれる機能があると便利です.今のシステムだと,自分のルート上で何か所要時間に影響を及ぼすような事態が起こったかどうかを,自分自身で見つけないといけません.ところが,例えばカーナビは目的地もルートも認識した上で案内しているわけです.あるいは道順を教えてくれるような歩行者用ITSができれば,そのルート上で起こった事象は見つけることはできるはずです.もしも見つかったらこのままでは予定通りの時間に着かないから代替ルートや代替アクティビティを提示してくれる.ルートを変更しますか,アクティビティを変更しますか,というような血の通ったサービスをするには,多分民間が関わって,個々の利用者に対する情報提供の方法を工夫できるような仕組みが必要だと思うのです.

○森川 情報の収集や取材方法,あるいは取材費用の話題がありましたが,実はその場へ行って自分の情報を発信したい人も沢山います.例えば,情報誌に書いてあったお店へ行って,話題の料理がいま一つだったなと思うと,その場でパッパッとそれを例えば「ポタ」宛にメールを打つ,というように.こうした情報をどんどん蓄積しつつ,もちろんそれをもとに再取材するようなことも考えられるでしょう.同じように,車も走りながらでも情報を(文字どおり)機械的に収集しながらそれをアップリンクして発信できるので,情報の収集の部分やそれをアップリンクするところも非常に重要なITSの分野です.

○倉沢 アナログの世界でこうした情報収集の問題を一気に解決したのがリクルートがはじめた仕事のやり方注(13)だと思うのですが,広告情報である以上やはり出したくないものは出したくないわけで,収集できる情報にも限界があります.ですから,今からそういう情報収集のスキームを1から作るのは膨大なコストだと思います.コストを既に負担しているところを上手く使うべきで,その1つのヒントは,地元のラジオでありタウン誌であろうと思います.地元のタウン誌での情報の集め方のノウハウ,安いお金でラジオ・カー走らせて取材してくるというローカル・ラジオ局の仕組みを使うのです.
 奇しくも今,放送のデジタル化の中で,デジタル化の本質はやはり多チャンネルだと思うのです.沢山のチャンネルが用意されてもそれだけ沢山のコンテンツがあるかどうかが議論になる.やっぱりデジタル放送に変えるには機材を変えるコストがかかるのでいわゆるリストラも必要ですが,ローカル放送局が生きていくためには,地元情報を安く持ってきて,いろいろな方法で流すことをしなければいけないという問題意識が今出てきています.テレビ・ラジオのいわゆるキー局を中心とする連合,タウン誌のタウン誌情報全国ネットワークといった広告を取りまとめる全国組織もありますし,コミュニティFMの全国協議会もあります.そういう情報交換のネットワークを利用してうまいことそれぞれにノウハウを交換し合うと,基礎的なアナログ・インフラができるのではないか,と考えているのです.

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