10 情報の価値と差別化

○森川 情報には,これがみんなに広がって,みんなが情報を持ってしまうと価値がなくなってしまい,私だけが持っているということに価値があるという面があります.管理職には自分だけが持ってる情報があるだけでそれだけの偉さしかない,という話もあります.例えば,私は1ヶ月あたり1,000円を払って限られた人にしかわからない情報を持っているのでお得なんだ(本当に得かどうかはわからないのですが),と思っただけで,ある店へ行ったら本当に美味しいかどうかと関係なくもう満足だ,ということがあります.混雑情報でも,限定会員100名だけにすばらしい渋滞情報や抜け道情報を教える,と謳えば,本当に早いかどうかがわからなくてもその情報に従っているだけで安心だ,と感じるのではないでしょうか.
 このように,情報は広がってしまうと逆に価値がなくなって,限定された場合に価値が出てくるのです.だから結構難しいのです.「ITS」と言う言葉を使うと,どちらかというと直ぐにみんなに広がってしまうようなイメージですが,一方ではやっぱり情報というのは限られた人だけのものが欲しい(注14)

○赤羽 カーナビの普及によって誰にでも活用できるような形態で渋滞情報が行き渡ると,渋滞区間をうまく迂回できる人たちがより多くなる.そうするとカーナビを持っていなくて渋滞を知らずに迂回せずにそのまま突っ込む人も,持っている人が迂回してくれるので,それほどひどい渋滞には遭わないので得をしてしまう.結果として,例えば渋滞情報を受信できるタイプのカーナビが2〜3割程度普及してしまったら,それ以外の人はそのタイプの機種を買う必要がなくなってそれ以上普及しないのではないか.また,個々の利用者がカーナビを使って所要時間を最小化するように経路選択するだけでは,交通システム全体として総走行距離や総排出ガス量などの面で必ずしも望ましい状態に収束するとは限らないことが知られています.
 そこへ例えばある路線をある時間帯に使うと少し割増の料金になるようなピークロードプライシングのような方策を導入するとどうなるか.所要時間だけでなく,いつ,どのルートを使うか,どのくらいのお金がかかるかということの組み合わせとしての選択肢を増やすことによって,道路利用者もお金が重要な人と,所要時間が重要な人とで,選択結果が異なってくる.選択肢がそれほど多岐でなくても受け取る人の事情もそれぞれ異なるから,それぞれが時間帯別の通行料金を含む交通情報に今まで以上の価値を見出して,通信機能付きのカーナビを買ってでも情報を取ろうとしてくれる.逆にそうならないと,ピークロードプライシングに関する情報が行き渡らないで,交通政策として効果は上がりにくいものと考えられます.

○森川 例えば,情報誌にも「ポタ」以外にも「ぴあ」や「HANAKO」などいろいろあって,それぞれがそれなりに共存していたのは,「ぴあ」の情報を信じる人や「ポタ」の情報を信じる人など差別化があったからでしょう.同じ店を同じように紹介していたらどこか1社が残るだけかもしれない.紙媒体ですと費用もかかるし買う人も限られるので,割とそういうお得情報・秘密情報的なところがあったと思うのです.ITSのようなハイテクはハイテクなりに限定情報を提供する手段もあるはずだと思うのですが,それがだんだんマスメディアになり,放送的なITSになり,そうなると情報がどんどん広がって価値が減少することもある.

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