22 お客様第一のITSビジョン

○倉沢 それぞれの企業の立場から,そろそろ目標とするITSの最終的な姿を明確にしてほしいと思います.今はまだ国が作るポンチ絵の地図の中に様式見本みたいな絵が沢山あって,この絵図にみんなが頼ってしまっている.そうではなく,ある会社の描く全体像(それは国の描くものとは違っていても構わない)の中でその会社が取り組んでいる部分,あるいはその部分の外側も将来取り組むつもりかどうか,ということを各企業が明確にすることが必要です.「我が社の描くITSビジョン」がそれぞれ違っていていいのであって,同業他社の中で全く違うビジョンを描いているからこそ,ある人はその車なりカーナビなりを買おう,あるいはそのサービスを買おう,と考える,そういう枠組みでいいと思います.ドコモやトヨタや松下あたりの企業は,感じとしてビジョンと名のつくことを言おうとしていますが,それはそれぞれの立場でビジョンを描いていいのです.
 車も車でない空間も一緒にしたいという電気屋さんや電話屋さんの言い分に賛同する人もいると思いますし,やっぱり車の中ですてきな時間を過ごしたいと思う人もいるでしょう.あるいはもっとマクロな視点から,交通の中で自動車というものはマイナスの影響を及ぼしてはいけない,といった高い理念のユーザもいると思います.それぞれの立場で描いたビジョンに賛同して,車はどれ,端末はどれ,といった仲良しグループが形成されていく中で,そのサービスに対して各企業がパッケージで関与する.そうした構図が,消費としてのITSの部分をうまく機能させるのではないか.こうしたグループの固まりが1つではなくて3つか4つあるという状態で,それぞれ情報だけは共有できるわけです.結局そうしないと受け手もよくわからないし,一番ネガティブな視線を浴びる人の影響を全体が受けてしまうような現状はいけないように思います.
 幸い,ITS関連の5省庁注(28)はそれぞれのスタンスでビジョンを持っているような気がします.しかしそこに参加している企業は,政府のビジョンの中のなにか一つのアプリケーションをこなせばよいのではないのです.各企業が独自のビジョンを持たないと,結局社会システムに参加している企業と認識されず,自分に跳ね返ってくる気がします.

○森川 ITSは,工学の立場では最初はまず9つの開発分野注(29)システムアーキテクチャー注(30)の絵などから入りました.でもこのITS研究委員会で「どうも何か違うな,ITSはこんなものだろうか,もう少し違う風景が見えるのではないか」という議論をしていて,普段我々がITSを議論している方々とは全然違う方々をお招きしたこのような座談会を企画したのです.

○赤羽 9つの分野は,5省庁の担当分野に名前をつけたようなもので,全体の機能を見渡した上で分野を定義したものではないのです.使う側が本当に欲しいもの,あるいはビジネスチャンスとして取り組む企業がどのようにしてお客さんを獲得したいのか,といった眼目がもう少しはっきりと出てくるといいですね.

○中島 私は実際自分で雑誌に取り組んできたわけですが,とにかくITSを見ていて思うのは,雑誌の場合の読者や視聴者,つまりユーザの日常的な生活感覚というものがITSには全く反映されていないことです.システムの構築に終始していて,それにユーザの車や交通をはめ込んで行こうとしているように見えます.それでは,発想が逆だと思うのです.
 現実にホームページがこれだけ普及して,現実にユーザは雑誌やいろいろな地図とエリア情報を使っています.実際にユーザはこうしたリアルタイムな天気情報などの情報や情報の加工をしているわけですから,その日常感覚をITSに反映していかないと,ますますズレが拡大していく.こうしたホームページの普及は,ITSにとっても追い風のはずです.だからホームページをどうやってユーザーが利用して,どうやって自分の生活に役立てているかを,原点に立って見つめる必要があるのではないでしょうか.

○本多 これまでのシステムづくりではユーザをあまり見ていないですね.それぞれのサービスに1つの目的があると,それだけでシステムをつくってしまうことが多いですから.本当にどういうニーズがあって,ユーザーがどういう使い方をしたいのか,しかも多様性を踏まえながら,どのように柔軟なシステムをつくるべきか,という部分が一番問題で,その中で標準化もいろいろ努力されていますが,まだなかなか標準までいかないという感じがします.

○倉沢 ITSとしてどれだけ気の利いた状態になっているかが重要でしょう.ハードウェアでもサービスの加入でもいいのですが,加入した段階で何かに限定されるのであって,全部に対応するITSである必要はないのと思います.受け取る人から見てパッケージの全体像が分かっていて,その人たちにとって必要なサービスがある部分に限定できることをうまく整理できていればよい.それも民間ベースで何とかうまくできていけばいいと思うし,できてくるだろうと思います.モバイル・ライフでもITSビジョンでもいいのですが,何とかビジョンなるものと,その中で各企業ができることを,消費者の目の前で情報交換する姿があってもいいように思います.

○中島 そうすれば具体像が見えてくるので,ユーザにとって分かり易くなって,ユーザも実際に利用できるイメージを持つことができるでしょう.

○倉沢 雑誌の場合は,毎号毎号そうした具体像をプレゼンテーションしているようなものです.そうした中から,いずれあるサービス体系に合うような情報を出す方法についての組合せが出てくるでしょう.全部で全部の情報が得られるという姿ではない方が,多分幸せです.

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