●1973年版
星埜 和
 交通工学とは何か,と問われれば次のように答えたいと思う.交通工学とは,道路および街路を利用して行なわれる人と物の移動について,科学的な計測と調査を行なって,その実態を明らかにし,交通の流れや発生機構に関する経験的法則あるいは基本的理論を立て,得られた資料と知識にもとづいて,道路,街路,交差部,ターミナル設備などを含めた交通システムの計画・設計ならびに運用を行ない,あわせて沿道の土地および他の交通手段との関係を取り扱い,これによって人と物の移動を安全,円滑かつ快適なものとするとともに,環境との調和を図ることを目的とする工学技術の一分野である.
 かつての交通工学は道路交通の安全と円滑を2本の主柱とし,3つのE,すなわちEngineering,Enforcement,Educationを部材として組み立てられるといわれ,いわば道路交通システムの閉じた内部にみずからを限定してきたきらいがあるが,いまや道路交通システムを囲む外部環境との関連において公害を始めとする多くのむずかしい問題が相次いで生じ,第4のEとしてEnvironmentが加えられるようになった.
 20世紀の後半にかけて交通問題は人類の将来を左右する重大な課題に発展しようとしている.特に自動車と道路がその中心課題となることは避けがたい.このような重大時期にあたって,交通工学ハンドブックが刊行され,道路交通に関する資料と知識を集大成し,現状を整理体系化して,研究や実務にたずさわる人々の利用に供するとともに,新しい時代への出発点の地固めを行なうことの意義はきわめて深いものがある.
 本書の刊行にあたり,直接間接に執筆,企画,編集の仕事を引きうけて下さった方々に厚くお礼を申し上げたい.
昭和48年1月

●1984年版
星埜 和
 わが国で初めて「交通工学ハンドブック」が出版されたのは,今からおよそ10 年あまり前のことでした.それよりさらに10 年近く前に交通工学研究会が生れております.
 あの頃は戦災の傷手から立ち直ったあと経済の高度成長期がつづいており,全国至るところで生産施設から出る排ガスや騒音による公害騒ぎが捲き起っていました.
 自動車を中心とする道路交通も,鉄道,海運,航空とならんで,公害騒ぎの片棒をかつぎながら,交通事故の激増と交通渋滞の慢性化に頭をかかえていました.
 その後,世の中はがらりと変わり,交通情勢もまた大きく変わりました.突如として起った石油危機は世界中に大きく長い影を落しました.しかしそのお蔭で長足の進歩をした省エネルギー技術やマイクロ,エレクトロニックス技術やロボット技術に助けられて,産業経済はようやく小康を保っているようです.
 道路交通の面でも,交通事故は半減し交通公害もかなり軽減はしておりますが,なお大きな社会問題の一つであることは少しも変わっておりません.
 今や自動車の保有台数は4 千万台を超え,自転車の所有者は5 千万人を超えております.道路交通の比重は増し,ますます多様化しております.わが国の生産活動も日常生活も道路交通に依存する率が一層高くなるばかりであります.
 道路交通に関する膨大な経験,知識,技術を集大成し科学的に再構築して,より安全で,より使い易く,より快適な交通手段とするため,交通工学は発展してきました.その活動は必ずしも派手に目立つものではありませんが,大きな蔭の力となっていることは確かであります.
 旧版の「交通工学ハンドブック」では,当時まだ発展途上にあったわが国の交通工学技術の姿をそのままに止めておりましたが,今回の改訂によって,その後,画期的に進歩して世界のレベルに達したといわれるわが国の交通工学技術の最先端を記録するなど,内容を一新したものとなっております.
 研究者,実務家を問わず,専門家をはじめとして,交通工学を志望する学生や道路交通に関心の深い一般市民の要望にも十分応えうるものと考えます.
 本書が広く活用されて,道路交通に対する理解を深め,交通工学の一層の発展と普及に役立つことを願っております.
昭和58 年10 月

●2001版
赤羽 弘和
 「交通工学ハンドブック2001」CD-ROM 版は,1984 年版「交通工学ハンドブック」の出版以降の道路交通分野における経験・理論・技術等の進展を取り込むべく開始された改訂作業の,いわば中間的な成果です.
 当初,この改訂作業は,従来と同じく全面改訂版を書籍として出版することを目指していました.しかし,網羅すべき広範囲な分野を見渡したときに,それぞれの展開の歩調や時期はまちまちであることがわかります.したがって,10 年あるいは15 年という比較的長い期間を周期として,一時期に改訂作業を集中させることは,必ずしも合理的ではないと結論するに至りました.また,一括改訂は交通工学,及び関連分野の専門家の執筆作業への集中的投入も必要としますので,活況を呈している分野ほど改訂作業の進捗が困難となる矛盾も懸念されます.
 上記のような状況に鑑み,「交通工学ハンドブック」現行版をすべて電子化してCD-ROMに納め,各分野の進展に合わせて今後2 年程度の周期で継続的に部分改訂することにより,交通工学を網羅した最新情報を常に提供し得るメディアを目指すことになりました.今回は,この約15 年間に特に発展が著しかった都市交通計画,地区交通計画,都市物流計画,交通情報・交通管制の4分野,及び関連統計に関する記述を改訂あるいは新設しました.もとより,部分改訂の集積が全面改訂に匹敵する時期を見計らい,従来の書籍の形式で出版することも想定しています.
 電子メディア化することにより,改訂版の価格が1984 年版のそれを大幅に上回るであろうとの懸念が払拭されたのみならず,今回改訂部分からカラー化が可能となり,近い将来には音声や画像の収録も想定されています.また,絞り込み機能付き全文検索,目次検索,そして索引検索等の本格的検索機能,本文や図表のカットアンドペースト機能,あるいは図表データのダウンロード機能なども一部または全面的に利用可能となっています.また,従来の「交通工学ハンドブック」本体の内容に加えて,交通工学に関連する法令・基準・マニュアル・便覧等を納めたデータベースを,交通技術委員会(堀江清一委員長)の全面的協力により収蔵することができました.加えて,当委員会の手でまとめた,交通工学各分野の専門家および関連団体のイエローページ機能も,新機軸のひとつです.
 本CD-ROM 版が,研究者や実務担当者などの交通専門家のみならず,近年のITS の発展にともなって連携を深めつつある車両,制御,情報・通信などの分野の人々,あるいは交通工学を目指す学生や道路交通に関心の深い市民にも,十分に活用していただける情報源となるよう,今後も努力と創意工夫を重ねて行く所存です.
依然として本CD-ROM版の多くを占める1984 年版の執筆者の方々,今回改訂部分の執筆陣ハンドブック改訂委員会の諸氏,そして交通工学研究会事務局のみなさんのご尽力に,心より謝意を表する次第です.
平成13 年12 月

●2005版
赤羽 弘和
 交通工学ハンドブックは,交通工学に関するあらゆる理論・技術・知識・経験を網羅した一大データベースです。1973年に初版を発行して以来、1984年に改訂され、2001年には全編を電子化してCD−ROMにより出版いたしました。電子化にあたり、全面改訂ではなく部分改訂を継続してその頻度を上げることにより、常に最新情報を網羅する方針をとっております。
 2005年版においては新たに8章分を改訂、2001年改訂分と合わせて全30章中13章の内容が一新されます。また、2001年改訂分に関しましても、データの更新等の修正を行いました。さらに、今回の改訂では文字、図・写真、表などの画面表示・印刷出力を非改訂部分も含めて全面的に向上させ、コンピュータ上のカットアンドペースト操作で、標準的な品質の業務資料等を作成していただくことを目指しています。
 電子メディア出版の特徴をさらに活用していただくために、ユーザー・インターフェースを一新するとともに、pdf文書検索用組み込みアプリケーション(PDFinder)も最新版に更新し、基本的な操作性を大幅に向上させました。また、文書中に関連ウェブサイト等へのハイパーリンクを多数設定し、情報収集の起点としての機能も充実させました。さらに、1) 交通シミュレーションの操作画面や結果表示画面等の例示動画ファイルの埋め込み、2) インタラクティブな簡易交通シミュレーションの組み込み等、さまざまなマルチメディア化にも取り組んでおります。
 このホームページで詳細情報をご覧いただき、是非ご購入のうえご活用いただければと存じます。
平成16 年10 月

●2008版
赤羽 弘和
 交通工学ハンドブックは、交通工学に関するあらゆる理論・技術・知識・経験を網羅した一大データベースです。1973年に初版を発行して以来、1984年に改訂され、2001年には全編を電子化してCD−ROMにより出版いたしました。電子化にあたり部分改訂を継続してその頻度を上げることにより、常に最新情報を網羅する方針をとっております。2005年版では新たに8章を改訂し、2001年改訂分と合わせて全30章中13章の内容を一新しました。
  今回の2008年版では、電子化以降に手つかずであった章の大部分を対象とし1984年版をほぼ全面改訂しました。また、2001年および2005年版での改訂分に関しましても、データ更新等の修正はもとより、ほぼ全面改訂された章もあります。さらに、データ量の増大に対応して、今回からメディアをCD-ROMからDVD-ROMに変更しました。
 2005年版の改訂では文字、図・写真、表等の画面表示・印刷出力を全面的に向上させ、コンピュータ上のカットアンドペースト操作で、標準的な品質の業務資料等を作成していただけるように機能を向上させました。また、文書中に関連ウェブサイト等へのハイパーリンクを多数設定し、情報収集の起点としての機能も充実させました。さらに、1) 交通シミュレーションの操作画面や結果表示画面等の例示動画ファイルの埋め込み、2) インタラクティブな簡易交通シミュレーションの組み込み等、さまざまなマルチメディア化にも取り組みました。
 今回の2008年版においても、これらの品質と機能をさらに向上させました。加えて、電子メディア出版の特徴を活用していただくために、pdf文書検索用組み込みアプリケーション(PDFinder)を最新版に更新し、Adobe Readerに加えてAcrobat上でもご利用いただけるようになりました。さらに、ハイパーリンクを活用した索引機能の充実により、専門用語の定義および適用に関する検索を高度化し、内部参照機能を充実させました。
 従来、Macintoshユーザのみなさんには本書籍の一部機能の利用に制約がありました。しかし、Windows OSを1つの仮想マシンとしてMac OSと同時に稼動できるソフトウェアの普及等により、これらの機能を全面的に活用していただける環境が整いつつあります。
 交通工学ハンドブック2008DVR-ROM版は、このように内容および機能において、一連の電子書籍化の集大成です。是非ご購入のうえご活用下さい。
 最後に、本書籍各章の主査および執筆者のみなさん、編集作業に協力していただいた日本大学理工学部社会交通工学科の学生諸君、交通工学ハンドブック2001改訂委員会委員、同2005改訂小委員会委員、同2008改訂小委員会委員、(社)交通工学研究会事務局のみなさん等、ご尽力を賜ったすべての方々に厚く御礼を申し上げます。
平成20年 7月
●2014版
赤羽 弘和
 交通工学ハンドブックは、交通工学に関するあらゆる理論・技術・知識・経験を網羅した一大データベースです。1973年に初版を発行して以来、1984年に改訂され、2001年には全編を電子化してCD−ROMにより出版いたしました。これ以降、電子書籍の特長を活かし、最新情報を網羅できるよう頻繁に改訂を重ねてきました。 2005年版では新たに8章を改訂し、2001年版での改訂分と合わせて全30章中13章の内容を一新しました。さらに2008年版では、電子化以降で手つかずであった章の大部分を対象として1984年書籍版を大幅に改訂し、メディアもCD-ROMからDVD-ROMに変更しました。
 2005年版の改訂では文字、図・写真、表等の画面表示・印刷出力を全面的に向上させ、コンピュータ上のカットアンドペースト操作で、標準的な品質の業務資料等を作成していただけるように機能を向上させました。また、文書中に関連ウェブサイト等へのハイパーリンクを多数設定し、情報収集の起点としての機能も充実させました。さらに、1) 交通シミュレーションの操作画面や結果表示画面等の例示動画ファイルの埋め込み、2) インタラクティブな簡易交通シミュレーションの組み込み等、さまざまなマルチメディア化にも取り組みました。2008年版においても、これらの品質と機能をさらに向上させました。さらに、ハイパーリンクを活用した索引機能の充実により、専門用語の定義および適用に関する検索を高度化し、内部参照機能を充実させました。
 今回発行する2014年版においては、「第5章 交通流理論」、「第13章 地区交通計画」、「第17章 平面交差」、「第21章 道路標識および路面標示」の全部または一部も改訂しました。さらに特筆すべきは、道路交通法および道路法の最新の改正内容までを反映させて「第31章 行政と法規」を改訂したことです。本章の改訂により、2001年版に始まる電子書籍の一連の改訂作業が一段落し、1984年書籍版から全章が改訂されたことになります。
 2014年版では電子書籍としての機能もさらに改良し、コンテンツファイルを販売サイトからダウンロードし、オンラインでアクティベート操作をしていただければ、お手元の様々な記憶装置に組み込んでご利用いただける仕組みとしました。これにより、ご購入後のコンテンツの維持・管理の利便性も、大幅に向上するものと期待しております。
 最後に、本書籍各章の主査および執筆者のみなさん、2008年版の編集作業に協力していただいた日本大学理工学部社会交通工学科(当時)の学生諸君、交通工学ハンドブック2001改訂委員会委員、同2005改訂小委員会委員、同2008改訂小委員会委員、同2014改訂小委員会委員、一般社団法人交通工学研究会事務局のみなさん、ご尽力を賜ったすべての方々に厚く御礼を申し上げます。
平成25年 12月