2024年1月に行われた交通工学研究会論文賞・技術賞選考小委員会において、論文賞・技術賞候補が選出され、2024年3月19日開催の第4回理事会において決定いたしました。


第38回交通工学研究会論文賞

道路施設の生存関数のノンパラメトリック推定:生存期間の長さを考慮した生存開始時間が不明の場合の推定

 桑原 雅夫、吉井 稔雄

  交通工学論文集 第9巻 第1号

選考理由

 本研究では,生存開始時刻が不明なデータが含まれるデータセットに対して,生存関数をノンパラメトリックに推定する手法を提案している.道路構造物の補修や附属設備の運用開始時期に関しては,その履歴が十分にデータ化されていないケースも多く見受けられ,効率的なメンテナンス業務の遂行ために必要となる生存関数を推定する上でも,生存開始時刻の不明データを含む状況を前提とした方法論の開発は大変重要な課題といえる.ETC施設の故障データを対象とした数値計算により,生存開始時刻の不明データを含むケースでも,所与のケースと遜色なく推定可能であることを示している.以上より,研究としての新規性,発展性,論文としての完成度の点で高く評価された.ゆえに,本研究は十分論文賞に相応しい論文であると判断した.


第27回交通工学研究会技術賞

全車両軌跡データ(ZTD)の概要および渋滞分析の実例

 阪神高速道路株式会社 計画部調査課

  機関誌「交通工学」 第58巻2号 報告に掲載

選考理由

 本報告は,阪神高速道路(株)が渋滞,事故等の課題の緩和・解決を目指して,個別車両の挙動レベルより交通現象を分析するため,2km前後の区間の全車両の軌跡データを時空間的に連続に収集したZTDに関する報告であり,データ自体の価値は高いといえる.道路管理者としての社内実務での活用に加えて,オープンデータとして,国内外の研究者にデータを積極的に公開し,ZTDを活用した研究論文は国内外あわせて50編を超えており,データ面から交通工学の発展にも貢献している.ゆえに,十分技術賞に値するものと判断した.

2社間共同”ドライバー交代制”中継輸送方式の取組み

 萬運送株式会社

  機関誌「交通工学」 第58巻4号 報告に掲載

選考理由

 本報告では,深刻化してきている職業運転手不足に対する対応策の一つとして,複数社間共同での中継輸送方式を対象として,中継輸送が実現に至った経緯と,事業を継続するための留意点が具体的に述べられており,今後に向けて非常に示唆に富んだ内容となっている.報告された中継輸送方式は,対策としての即効性,展開可能性の点で期待できるのみならず,従業員のライフスタイルの多様化にも対応でき,運転手として勤務可能な就業者層の広がりに繋がる可能性も秘めている.ゆえに,十分技術賞に値するものと判断した.