ITSのある生活(No.5)
ハードウェアとシステム,ソフトウェア / 筋のいいプラットフォームとは

○赤羽委員長
私も基本的には、そうなって行くだろうと思っています。そうあるべきだと思うのですが、そこに日本のITSが現実に抱えている問題が関わってきます。
さきほど話題にのぼった倉沢さんは、現在は日本総研に在籍されていて、「ITSの公共事業化を避けなければいけない」と警告されています。ここでの“公共事業”とは、いわゆる“箱物行政”の意味でしょうね。
今までは少なくともITSというのは行政が主導してきました。交通情報をビーコン経由で車載機に提供するサービス、あるいは自動料金収受(ETC)も、ハードウェアシステムをつくるということに第一の価値があるような展開方法がとられてきたように、私は認識しています。
三浦さんの著書の中でも述べられているように、耐久消費財を所有すること自体に意味があった時代が、日本にありましたね。それがまだ日本のITSの世界では残っているようなところがあります。実際には、道具は何であっても、それによってどんな生活をするとか、どんな移動をするのかが重要で、それが評価基準であるべきです。ところが、例えばVICSのビーコンが何本立つとか、ETCの料金所がいくつになったとか、そういうことに目が行きがちです。
例えばETCというのは、料金所のブースで一々停止しなくても料金を支払える。それが快適であるし、雨降りにウィンドウを下げなくてもいいから濡れなくてもいいとか、小銭を用意しなくてもいいとか、料金所の処理能力が上がるので料金所渋滞が減りますよということだけが注目されています。しかし、私たちが期待しているのはその面ばかりではなく、例えば時間帯によって料金を高くしたり安くしたりするような複雑な仕組みを取り入れても、情報通信技術を使うと料金所で混乱を来すことがない。そういうことによって、今話題になっているロードプライシングなどの実現性が高くなってくる。そちらの方が、むしろ重要です。
ただ、自然を相手に技術だけで勝負できたアポロ計画と違って、交通は人間社会が相手です。その社会の制度にも、足を引っ張られているところがあります。例えば、今ETCにより技術的には料金を自由に設定できるから、有料道路の料金を時間帯別に設定してピーク時間帯の交通量を減らしましょうと即刻結論をだせるかというと、そうはなりません。技術の問題ではなく、制度とか政策が関わってくるからです。そういう料金制度や交通運用が社会全体に受け入れられるか、そういう問題になってくる。システムアーキテクチャ云々よりも、実はそこが難しいところです。
ITSで苦労されているあるメーカーの方は、最近こうおっしゃっていました。まず非常に立派なシステムアーキテクチャをつくろうとして、なかなか実現できない。それで、できるものからやっていった方がいいのではないか。「こんなに便利なんだ」という実感を少しずつ、少しずつ世の中に浸透させていって勢いをつけた方がいいのではないか、というご意見です。

○長谷川
システムアーキテクチャに関しては、おっしゃるとおりだと思いますね。ITSに限らず、要するに混沌としているものをまず整理して、本質をきちんと洗い出すところからやらないで、箱物、物をつくるところからやるのがぐあいが悪いという意味で私は申し上げたので、システムアーキテクチャが万能とは到底思えない。
これは単なる1つの海図をつくって、とりあえず何もわからないところにとにかく道しるべといいますか、少し全体的な思考ができるような形に持っていきましょうという1つの手法であって、とてもそういう意味では万能なものとは思えないですね。
それから、先ほど一番伝えたかったのは、これまでの箱物行政というのは、私、確かにそのとおりだと思ってます。
ただ、それに対する1つの意見というのを私は持っているんですよね。今、ハードウェアシステムというのを先生がくしくもおっしゃいましたけれども、まさにそこなんですよ。ハードウェアというのはシステムだ、ハードウェアとシステムの間がイコールであってハードウェアシステムというふうに従来は考えていたし、従来はそれでよかったんですよね。
ところが、今、私はっきり言えるのは、ハードウェアというのとシステムというのは全く別のもので、あるハードウェアのごく一部分にある機能を持たせると、それはシステムですが、同じハードウェアの別の部分に別の機能を登載、いわゆる1つのプラットフォーム上に登載すると、それは1つのハードウェアですが、システムとしては真ん中で切れてしまう。
例えば情報通信で言えば、ゲートウェイを中にかますことによって、ハードウェアとしては1つつながった通信路であっても、イントラとインターネットにゲートウェイで完全に切り分けができるわけですね。
つまり、情報のシステムとして、実際はハードウェアとしてはつながっている。実際ハードウェアのシステムとしては1つなんだけれども、その中には別のシステムが存在するという形にまず頭を切りかえないといけない。ハードウェアイコールシステムという時代は私は終わったんじゃないかなというふうに思っています。そこら辺の切り替えがやっぱり大事なんだろうなということを思っています。
それで、例えば1つは、行政がやるべきかどうかはよくわからないんだけれども、私は最近、やっぱりこれはみんなが共有できる筋のいいプラットフォームをつくるべきだというふうな意見なんですよね。ですから、そういう意味では、それは行政がやった方がいいかもしれない。
これは動機づけの問題でもあります。ITSの絡みで単独で黒転しているところはないと思うんですよ。ほとんど企業でも、要するに黒字になっているところはなくて、国土交通省の系列の委員会なんかに出させていただいても、しょっちゅう出てくるのがBバイC、BバイCなんですね。
当然これだけのアカウンタビリティーの時代、タックスペイヤーに対してBバイCをきちんと説明するというのは、確かに重要なんだけれども、それが決められたあるハードウェアだけとか、ある小さな部分的な細々したシステムに関してBバイC、これもBバイC、これもBバイCとやると、どれも成り立たなくなってしまう。
そういう意味で、非常に筋のいいプラットフォームを1個つくって、私は、道路があって、その上に道路プラットフォームみたいなものがあって、そこが一定の機能を供給することによって、その上で幾つかのITSアプリケーションをつくっていくという、こういうスタイルが健全なんじゃないかと思います。
この共有するところはみんなで、本当に官がやるかどうかは別としても、官の出る非常に重要な場の1つかもしれないという気はしているんですね。
プラットフォームを共有して、その上で、あと競争的にシステムをつくっていく。つまりハードウェアとシステムは違いますよという話は、今までにコンピューターが非常に発展して1つの商売になってきた1つの重要な要素だと思うんですよ。違うアーキテクチャのCPUの上にOSが載って、そのOSがその上のアプリケーションに一定の機能を供給するから、アプリケーションは共通の機能を使ってそれをつくればいい。
例えば、ワープロ専用機が今ほとんど売れなくなっちゃったけれども、あれだって、中で使っているハードはほとんどコンピューターと同じで、たまたまワープロ専用機になっているかどうかだけの話でけどすね。コンピューターがみんな、このコンピューターはあるときワープロとして、あるときは通信機器として、あるときは表計算としてという、こういうような使い方ができるような汎用的なものをつくるべきものなんです。
そうすると、そういう筋のいいプラットフォームをつくれば−−多分筋のいいプラットフォームって、私は3つ機能があれば十分だと思っている。十分というか、3つしかないと思っているんですよ。
1つはもちろん道路の基本走行機能というやつで、これは20世紀のうちに大体できてしまった。道路にぴたっと張りついて、滑らかに、照明も含めて現行の段階で20世紀のうちにほとんど技術的にはできてしまったと思うんですが、2番目がリアルタイムで高精度なポジショニングができること。もう一つがリアルタイムでシームレスな通信ができること。この3つあると、例えばETCといったって、これは社会的コンセンサスの問題はもちろんありますけれども、どの車がどれだけ乗って、そこでおりますということがわかれば、ETCというのはソフトウェアでできちゃう。つまり、そこへ情報をバッと集めてきて、だれの口座から受益者負担で料金を落とせばいい。
ETCの機能というのは、まさに課金ソフトというか、走行情報を拾って集めてくるソフトウェアでできてしまう。あるいは協調走行とか自動走行といっても、車とか障害物のある位置とかという、それぞれの関係がリアルタイムに通信できていれば、そこのところを自動走行させる車というのもつくりやすい。
結局、その3つの機能がきちんと統一的に提供できるようなシステムが最初にプラットフォームとしてできちゃうと、あとはその上にたとえばETC機能のソフトウェアでETCシステムをつくっていく。そうすると、先生がおっしゃられたような受益者負担で小まめにピークロードプライシングをして、ピークにはちょっと厚みをつけたロードプライシングをしましょうといこともできるようになる。
一部の人は、例えば首都高なんかで埼玉から神奈川まで抜けるときに、真ん中だけが混んでいるときに、本当は混んでいるのがわかっているんだけれども、1回おりるともう1回料金を最初から取られるから、だから降りないよというようなことも現実に起こっている。上が混んでいるなら一部下に降りて、下も含めて道路の容量をいっぱいいっぱいに使って移動すればだいぶ違う。一部は下へおりてくれて乗るんだから、本当だったらここを通過しない分安くしなきゃいけない。そういう今できていないことも簡単にできてしまう。
もちろん社会的コンセンサスという話はありますが、ちょっとおいておいて、少なくともそういう可能性のある共通部分というものをつくれれば、BバイCの少なくともCの部分がいろんなアプリケーションからの−−要するにCが共通になる部分、それだけ一つ一つのアプリケーションから、あるいは一つ一つのシステムから見たCが小さくなるはずだ。そういうようなことをやるべきだろうなというふうに私は思っています。官がやるべきだろうか、そうじゃないかというのは私にはよくわからないんだけども、やっぱり競争でつくる部分と、共通にみんなで共有すべき部分というのがあるような気がします。

○赤羽委員長
おっしゃるとおりだと思います。逆に言うと、ハードウェアシステムが別であっても、ソフトで接続することも可能だということですよね。

○長谷川
それはどういう意味でしょう。でも、情報交換とか、何らかの形ではつながっていく。

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