ITSのある生活(No.9)
「ITSという技術基盤 / サイバー空間上のマーケットの広がりと交通網のミスマッチ」
○吉開
岡本先生のお話、非常に僕は今感じていることで、要するにサイバー空間上でいろいろなやりとりがあって、マーケットは広がっていっていて、トレードは成り立つわけですけれども、実際の生活の中では物が動かないといけないわけですよね。
ところが、その物を動かすためのインフラ、要するに道路及びOD――オリジン アンド デスティネーションの関係が、多分サイバー空間と一致していないんですよ。だから、むだな交通量がどんどんふえている。だから、多分自動車会社さんが燃費のいい、排ガス規制も非常に満足されるものをどんどんつくられたとしても、経済効果としてモビリティーがふえちゃうから、逆に排気ガスがふえちゃうようなことが起きるんじゃないかというのを心配しているんですよね。
特にITSでモビリティーをふやすみたいな話がありますでしょう。そうすると、多分モビリティーだけの話じゃだめで、これは森川先生の前からの持論なんだけれども、都市構造そのものも多分変える。大都市の中で食と住が一体化されたようなところの中で全部済ますとか、何かすごく大きな話まで解決しないと多分だめだろうという気がしますね。
○岡本
ITSというのは技術基盤であって、やはりその前にTDMみたいなものを政策として考える必要があると思います。
例えば郊外へのスプロールの防止策がまずあって、それを可能にする技術基盤としてITSを考えていく。だから、ITSそのものが何かの問題の解決策になるというのは、ちょっとあり得ないと思います。
○赤羽委員長
それには、大賛成です。ところが、ITSがすべてを解決してくれるよとか、ITSが現代の交通システムにとってかわるみたいな考え方が蔓延してしまっているんですよ。でも、そうではなくて、我々の交通システムの中にITS技術というのをどういうふうに取り込んでいくか、うまく使っていくかということが本質のはずですね。
○長谷川
でも、それって宣伝がかなり入っているんじゃないですか。ITSの予算を取ってくるためにITSを美化しておかないと、というわけで。
○赤羽委員長
行政的には、そのような面もあるかも知れません。しかし、例えばITSで渋滞を減らして、渋滞による年間損失9兆円でしたっけ、12兆円?12兆円の損失を削減するとか、排出量を全体としてどのぐらい減らすとかって、そんなことを言っても、私たちの個人生活には直接関係ないですよね。それでカーナビを買ってくれとか言っても、そんなのは全然意味がない。
○長谷川
それは多分そういう数値を出している人たちも、本当にそうだと思っているというよりは、数値を出さないと現実味がないし、数値を出して「こうだ」というふうに定性的じゃなくて定量的に言ったほうがいいという意見があったんじゃないですか。
○赤羽委員長
それは、ITSをうまく使ったときの効果の1つの側面ですよ。みんな1つの側面ですよ。すべてではないんですよ。もっと違う面もあるのですから、そこがアピールされてもいいと思います。
○長谷川
民間企業のコマーシャルだって、そういうのがあったじゃないですか。某会社は「渋滞解決は私たちに任せてください。ITS、ETCを我々はつくっています」ってね。
これ、いつまでこういう宣伝をやれるかって思っていました。「ETCができました、渋滞が別の箇所に移りました」というような、結局ほとんど早くなっていないじゃないかという話になることは明らかで、いつこのコマーシャルを引っ込めるのかな、こんなことを言っちゃっていいのかなと、私は実は某会社のコマーシャルを見ていて、すごくそう思っていたんですけれどもね。
あれ、関係者は、今の形のETCをやったから本当に渋滞が減るなんて思っている人は、多分ほとんどいないんじゃないですかね。
○赤羽委員長
ETCで渋滞を減らすには、料金制度も絡める必要がある。ETCが無かった今までは、料金所を増設すると、料金収受員を新規に配置する必要があるから、人件費の余計にかかる。それから、インターチェンジ1箇所あたり少なくとも2つか3つの料金所をつくる必要がある。その料金所を配置するためのくねくねと曲がったランプも必要だ。
だから、用地も要るという事情で、出入り口の数自体を多くできないのです。多くつくれないと、1カ所に集中して一般の道路に車を出入りさせることになるので、一般の道路が詰まってしまうわけです。
ETCにすれば人件費がかからないですから、ETC専用の出入り口を既設のインターの間に増設できます。例えば東名だと横浜インターと川崎インターの間に横浜青葉インターをつくりましたね。あんなようなインターチェンジがたくさんつくれる。逆に、そういうインターをつくらないとETCのよさが活かされない。
でも、ETCの料金所をつくれば、あるいはETCという技術を開発すれば終わりかというと、そうじではない、しかし、そこで満足してしまっている側面があるようです。
○岡本
今後ETCの技術が向上して捕捉率が高くなり、それから安くつくれるとなると、一般道もつけられるようになって、例の東京のロードプライシングの問題のように、社会的な合意の問題が大きく発生すると思いますね。
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