定義の確認

by Hirokazu AKAHANE Date: Thu, 1 Apr 1999 19:55:39

赤羽@千葉工大です.

> もし,「混雑」が自由走行速度から少しでも遅くなる領域で,「渋滞」が
> ぎっしりと詰まりすぎて速度がきわめて遅くなり交通量(単位時間に断面
> を通過する量)がかえって小さくなる状態だとすると,この定義は一般感
> 覚からすこしずれますね。交通工学の論文を書くときは定義は厳密にしな
> ければなりません。しかしITS情報提供のように専門家以外に広く知って
> もらうときは,ある程度曖昧な面があっても仕方がないのではないでしょ
> うか。
>
> 森川が個人的に思っている社会的通念は,
>
> 混雑:前の車に追従しなければならない状態
> 渋滞:信号の通過に2サイクル以上かかる状態,もう少し感覚的にいえば,
>    信号,事故,工事,道路形状などでStop & Goを繰り返す状態
> 停滞:Stop & GoでStopしている時間がきわめて長い状態
> 大渋滞:渋滞している区間がきわめて長い状態
>
> と言う感じです。

一般利用者はともかく,少なくとも専門家としてITSなり道路交通なりに関わるときに は,「渋滞」あるいは「混雑」に関する共通の認識が必要と思いますので,私なりの 定義の確認を試みます.

かなり杓子定規で,下手すると嫌みったらしいのですが,どうか勘弁して下さい.   

  1. 交通需要とは,1時間なり5分なりの単位時間に,道路網状のある区間あるいはあ る断面を通ろうとする車,あるいは人の数です.
  2. 交通容量とは,1時間なり5分なりの単位時間に,道路網状のある区間あるいはあ る断面を実際に通ることがことができる車,あるいは人の数です.
  3. 渋滞とは,道路網状のある区間あるいはある断面において,交通需要が交通容量 を超過し,超過分が超過地点(渋滞の先頭)から上流に滞留する現象です.   

> 混雑:前の車に追従しなければならない状態

渋滞していなくとも,相対的に低速な車両が先頭となって形成される”車群(platoon) ”の中では,追従状態になっています.

渋滞中では,水力学で云うところの「常流」と同様に,巨視的な意味で,道路の下流 から上流に向かって交通状況(交通量や速度)が「伝播」します.

渋滞していないときには,「射流」と同様に,交通状況は上流から下流に向かって伝 播します.つまり,上流からの交通需要がそのまま流れ下るわけです.

> 渋滞:信号の通過に2サイクル以上かかる状態,もう少し感覚的にいえば,

”信号の通過に2サイクル以上かかる状態”がたまに起こるのではなく,毎サイクル 継続すれば,それは需要が容量を超過していることですから「渋滞」と同義です.

>    信号,事故,工事,道路形状などでStop & Goを繰り返す状態
> 停滞:Stop & GoでStopしている時間がきわめて長い状態

渋滞中の平均走行速度は,交通需要や容量を超過した需要の大小には依存しません. 渋滞の先頭,つまりボトルネックの交通容量のみに依存します.ボトルネック容量が 低くなるほど,渋滞流中の平均走行速度は低下します.

さらに,ボトルネック容量は微少な変動を繰り返します.これは,ボトルネック容量 が個々の車両の挙動が集積した結果であり,かつ個々の車両の性能やその運転者の特 性が一定ではないからでしょう.このボトルネック容量の微笑変動が,渋滞流中の速 度の変動として,下流から上流に向かって増幅・伝播されます.

ボトルネック容量が低く,容量の変動幅が大きいと,それが増幅・伝播される過程で 速度が零,すなわち停止状態にいたります.これが,「Stop & Goを繰り返す状態」に あたります.

どんなに増幅されても速度がマイナスになること,すなわち車が後戻りすることはあ りません.そのかわり,一回の変動ごとに停止している時間が長くなるのです.これ が「Stop & GoでStopしている時間がきわめて長い状態」にあたります.

> 大渋滞:渋滞している区間がきわめて長い状態

これは,上記の定義とは,ボトルネック容量ばかりではなく,交通需要と容量との関 係にも依存することから,かなり趣が異なります.

同じ大きさの交通需要が,交通容量が異なる2つのボトルネックにおいて渋滞を発生さ せていると仮定して下さい. 交通容量が相対的に低いボトルネックでは,渋滞区間は相対的に短時間に長くなりま す. 交通容量が相対的に高いボトルネックでも,需要の容量超過状態が長く続けば,やが ては前者と同じ渋滞区間長に達し得ます.

また,前者中の走行速度は,後者中のそれよりも,低くなります.ボトルネック容量 が相対的に低いからです.

したがって,同じ渋滞長であれば,前者を通り抜ける時間は長くなります.可変情報 板を使い慣れた人が「事故」や「工事」などの渋滞原因を知りたがるのは,交通容量 の格差により,それらを通過する所要時間が,同じ長さのいわゆる「交通集中渋滞」 よりも大きくなることを経験的に知っているからです.

> カーナビのVICS情報で出てくる「赤」と「黄色」の定義はどうなっている
> のですかね。どなたか教えてください。

カーナビでの表示は,例えば首都高速における図形情報板の表示のように,時速20km 未満が「赤」,時速20km以上40km未満が「黄」なるリンク属性情報がリンク旅行時間 とともにVICSセンターから送信されていて,それをそのまま表示しているだけだった と思います.

「だからどうなんだ?」と疑問には,こう答えたいと思います.

一般利用者に最も分かりやすく使いやすい「混雑情報」の提供様式は,「渋滞通過時 間」なり「経路所要時間」ではないでしょうか?

道路交通を管理する人にとっては,「渋滞通過時間」なり「経路所要時間」では情報 が不足します.交通の需給バランスに関しては何もわからないからです.”プロ”に は,交通需要とボトルネック容量の大きさも重要です.

以上

この意見に関しての意見は jste@super.win.ne.jp へお寄せ下さい。


Copywrited by Japan Society of Traffic Engineers