by Takashi Akamatsu Date: Mon, 05 Apr 1999 16:28:26
赤松です.研究室から見える桜がきれいで,ついつい,のほほんと
した気分になってしまいます...
で,森川さんの質問についてですが,おそらく,これは, "利用者"
という言葉の意味・定義が,パネリスト間で食い違わないようにと
いう配慮によるものと思いますので,(平日は長いmessage は書か
ないつもりでしたが)ちょっとクドめに回答いたします:
"道路システムの利用者 (U)" は,"提供情報を利用する道路利用者
(Ua)" と "提供情報を利用しない道路利用者(Ub)" に大別できます.
羽藤さんは,先の mailでは,"情報提供会社が成立するか否か" に
興味があったため,Uaを "利用者" と呼び,また,Uaの便益を "情
報の価値" と呼んで議論されたわけです(ですよね?). 一方,
私は, "情報提供システムの有効利用" に興味があったため,U を
"利用者" と呼び,U+その他関連主体の便益("情報システムの効果")
を問題にした議論もあると良い,となったわけです.
で,Ua の利用者個々の感じる "提供情報の価値"を単純に合計して
も,情報システムが,道路システムに関係する主体全体(U と情報
提供主体)に対してもたらした総便益にはならないことは,言うま
でもありません(さらに言えば,Ua利用者の価値の総和を改善する
ような施策は,必ずしも U全体の総便益を改善するような施策とは
ならない(*)).
なぜなら,Ua の行動が Ub に対して混雑の増加/減少という外部
不経済効果を生じさせ,Ub にも新たな便益/損失が生じてしまう
からです.それから,Ua 集団の中でも混雑による外部不経済効果
があることは当然ですが,_その効果を全て完全に折込み済みでUa
の個々人の純便益を計測できれば_,単純に足しても問題ありません.
最後に,(これまた当たり前ですが念のため...)提供情報が有料
である場合, Ua の純便益は,情報がUaにもたらした(貨幣換算の)
便益から情報獲得コスト(料金)を差引いたものとなりますが,
システム全体で考えれば, 利用者と料金徴収者間でお金が移転する
だけなので差し引きゼロです(要するに,情報提供料金は,社会的
には費用ではない).
(*)情報提供・経路誘導システムと外部不経済効果の面白い例として,
Harker-Catoni-Pallotino の paradox というのがあります.これは,
Ua 集団の経路を(個々の利用者が自由に行動をするのではなく)
_この集団の総交通費用が最小_となるように制御できたとしても,
Ub 集団さらには U 集団全体の総交通費用がかえって増加する例を
(簡単な理論モデルで)示したものです.