11 「サライ」型と「i-mode」型への二極分化

○中島 私は二極化すると思うのです.ひとつは20代後半からもっと上の世代で,元「HANAKO」世代,さらにもっと上の「サライ注(15)世代です.それはもう非常にこだわりを持っていて,どうしても旨いものが食いたいという層でごく一部です.あとの大多数はいわば「i-mode」世代になる.「焼肉食べたいなら何でもいい」,「近くに5人で行ける店があればいい」という世代が圧倒的多数になる.これからのエリア情報誌が難しいのは,まさしくそういうi-mode世代が読者の担い手になるからです.そうなると雑誌のいわゆる紙媒体としての価値が変わるでしょう.その時々に友達とラーメンを食いたいというときに,i-modeで検索できればそれでいいということです.あまり味や店の雰囲気などにこだわらないところがi-mode世代の特徴なのでしょう.それは「飯屋」の選択に限りません.そうなると,かなり二極分化していって,ごく一部の「サライ」的な利用者のこだわり派と,大多数のi-mode便利派とに分かれていくだろうと思います.

○倉沢 お店でも宿でもいいのですが,これからはi-mode的情報が人を誘引できるようになる.すると,人気のあるところにはどんどん人が来て,それは商売繁盛でいいという考え方もあるでしょうが,別の考え方もあります.たとえば,私が半年前に泊まったある一軒宿の温泉があるのですが,そこが公道から自分のところまでの500メートルほどもある私道を塞いでしまおうか,と言っていました.というのも,いろいろな本を読み過ぎて,最近お客さんが来過ぎるのだそうです.その宿が本当に売りにしている静かな山の一軒宿という価値が,下手するとぶち壊されかねない.最近は10人以上の客はお断りして,道を塞いでしまって500メートル歩いてもらおうかと思っている,と言っていました.こうしてみると,1日1泊を売りたい宿の場合には,何かトータルな価値というものは必ずしも人を誘引する情報ではないように思われます.

 私も,情報のキーワードだけでものを求める人たちと,そうではないものを求める人たちがそれぞれいる,と考えています.実は供給側も同様ではないかと思っています.ITS的なる世界で発信する情報を,技術的にはてんこ盛りにすることができたとしても,ある種の揺り戻しで,てんこ盛りではない情報の方がきちんと整理されていくのでしょう.抽象的なメディア論ですけれども,ラグジュアリーな1泊を送りたい人は,やはり自分の足で歩いて来い,という流れになるように思っています.いわゆるデータ放送と言われている世界も同様でしょう.

○赤羽 受け取る情報に対して個人が支払う金額だけで収益性を考える必要はないと思います.どのような個人がいかなる情報を求めてそれに対してどう反応したか,という情報が情報提供者の手元に残ったり返ってくることがあります.それをまとめて今度はプライベートに,例えば企業体として活かしたいというような需要はないのでしょうか.そういう企業にまとまった情報を買ってもらえば,情報を利用する個々人はそれほど高いお金を払わなくても,全体としては成り立つような仕組みは考えられないでしょうか.

○倉沢 警察を発信元として,まず交通情報としての素材があります.つまり混雑情報があって,例えばラジオ局がこれを受け取って,何らかの方法で「今この情報を聞いて来たら500円のスイカが200円になる」という情報をお土産物屋から取ってきたとします.これをラジオの製作部隊がうまく一緒にして,このエリアでこの合わせ方ならうまくいくだろう,と考えてVICSの柱や携帯電話の基地局やあるいはITSで話題になっている何十メートルかだけ道路から届いて決済までできるような強力な電波を出すDSRCのアンテナで流すことができるでしょう.

 多分何年かすると車に乗っている全員が携帯電話を持っていて,事故を起こさないように何らか措置が取られ,その携帯電話が何か車の情報機能とリンクしているでしょう.そのときに携帯がプッシュメディアとして受け取るのか,ラジオからプツプツと流れてくるのか,それは要検討ですが,今渋滞していますという非営利情報と,高速道路を降りてこのお土産物屋に行くと安いですという営利情報・広告情報が一緒に付いてくる.受け取るのは無料です.もしもそちらへ行って200円で買えたときに,それだけなら単に広告ですから何のフィードバックもないですが,もしその車の種類などに何かIDをつけていたり端末にIDがあってその人が買ったことが何か会員限定サービスでわかったら,その会員組織は成功報酬を取れるのでしょう(消費者モニターを使ったPOS注(16)データのように自動的に).要するに交通情報自体は編集しないけれども,交通情報の付加価値を最大限高めるような情報を付ける仕組み,これが一番できそうな人は,何となくローカル・テレビ/ラジオ局で,これを発信する電波は携帯電話ではないかと私は思います.

 折しも,携帯電話をプッシュメディアとして使うビジネス(通信料は広告主が支払って,利用者がi-modeを見ていると嫌でも何でも広告がパケット通信で次々と無料で利用者に送りつける)がようやく始まりました.こうした携帯電話をプッシュメディアとして使うビジネス方策が今後出てくるでしょう.これを車の中で受け取ると,無限のような電力があって行動できる乗り物に乗っているわけですから,何か誘引することができて,うまく成功報酬のようなものを作れる可能性がある.このビジネスモデルをだれが持っているのか私は知りませんが,そのようなところまで来てるように思います.

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