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17 交通情報のビジネスモデル
○森川 先ほど,今や食い倒れ,着倒れ,携帯倒れ,というわけで若者はこれ以上もう支払えないのではないかという話がありましたが,車からであれば情報を垂れ流ししてもらうかわりに,そのお客への情報の提供は無料にするような取引はあり得ると思うのですが.
○倉沢 そのようなバーターもあり得るでしょうし,VICSという有料放送契約のお金の払わせ方が別の方法の成功事例です.VICSの場合は,お客はVICS情報を受信できる車載機のハードウェアを買った瞬間に有料放送の代金を全部払っているので,受け取る情報は無料だと思っているわけです.売り手は買い手に有料放送契約を結ばせていると思っていますが,買い手はカーナビのオプションだと思って買っています.ですから成功事例であると同時に,誤解を生んでもいます.またi-modeは基本的にはコミュニケーション端末だから,いつのまにかそこにかかる費用が大きくなっても「まあしかたない」というような合意がとれた珍しいケースでしょう.従って,「携帯倒れ」の話において重要なのは,どの文脈で支払わせたか,なのです.ただし少なくとも今,2年前の調査と今回の調査で言えば,既に飽和してしまっている「お小遣い」の中から支払わせることはもうできないし,全く新しい文脈で支払わせることも相当難しいと言えるでしょう.
○中島 i-modeがうまくいったのは,もともと電話代はかかるものだ,というユーザー側の認識の上に乗っているために,課金システムがわかりやすいからです.例えばホームページに対して利用料金を支払わせることが難しいのは,そういう常識がないからです.もともと,電話には電話代がかかるという既成認識があるから,それに情報利用料金を上乗せしたことが成功の鍵だったのです.
○赤羽 そうすると,特にVICS対応のカーナビは,VICSでは交通の情報だけしかもらえないのですから,その機能だけに購入者があれだけのお金をかけているはずはないでしょう.多分ほとんどの人が,静的な地図データベースの表示装置として,カーナビという「ハード」に購入代金を支払っていると思います.
○森川 IMT-2000注(23)の時代ではすべての家電製品にIPアドレス注(24)がつくようです.そうすると,家電製品の作動状況はネットワークを介してどこかですべてを把握していることになります.ある家のテレビのつけ方や洗濯機の使い方などの情報をマーケティング会社が買うようなお金のやり取りが出てくるでしょう.そうすると,自分の生活パターンの情報を切り売りしながら逆に自分の必要な情報はバーターで無料で手に入れる,といったいろいろなややこしい情報の売り買いのようなものが,本当に今後出てくるかもしれません.
○赤羽 同じように,自分がいつどこに行って何をしたかということを,ある程度発信すればこそ,自分の嗜好に合った情報ももらえるというような仕組みも出てくるかもしれません.
○倉沢 でも,普通は隠したいのではないでしょうか.要するに「取られている感」が嫌なのですよ.自分の家が知らず知らず泥棒に遭っていて,気づかなければそれはそれで幸せなのに,泥棒が入っていたということを知るのが嫌なのではないか.まあ,この情報家電の流れは肯定的に捉えたいのですが.ETC注(25)で何時何分にだれがどこを通った,という情報が知られてしまうことよりもそうではないメリットを前面に出したいと思うわけです.つまり,車のカーナビやi-modeなどの端末を買ってきて,それを捨てるまでの何年かの間に何か違う新たな生活上のメリットがもたらされることを強調したいと思うのです.i-modeというものから想像される自分の生活の変わり方,良くなり方をイメージさせることができるように,幾つかの技術で支えられているITSのサービスの全体像を見せることによって,支払いや受け入れられ方が決まってくると思います.
○赤羽 有料道路にどこから入って,どういうルートを使い,どこで降りたかというETCの情報は,今のルールだと道路を運用・管理している主体しか使えないのだそうです.そういう情報を収集・蓄積して,どのように活用して使っていくかというルールが定まっていないし,利用者に開示もされていません.
建前的なプライバシー尊重というような一文だけでこれをルールにしてしまうと,もっとうまく使えば個々のユーザーに対してもより良いサービスができるのに,実際にはできないことになってしまいます.
○中島 雑誌でも,最近の読者は個人情報の流出に対して以前と比べて非常に敏感になっています.私たちは,雑誌のホ−ムペ−ジを活用したタイアップ広告企画を推進しようとしています.リアルタイムで読者に商品の企画開発に参加してもらうというようなことです.となるとなおさらネット会員に対する配慮が必要になります.編集記事と違う企画であることをきちんと説明するとか.
○森川 我々は交通調査をやっていますが,交通調査というのは,まさに本当の日記のようなことを書いてもらうわけです.何でこれほど詳細なところまで書かなければいけないのか,というクレームを言ってくれる人はまだいいのですが,調査票を書くのも面倒くさいし,プライバシー探られるの嫌だから,もう交通調査にはちゃんと書かないで,会社行った,帰ったという,そういう交通調査の結果ばかりが出てきてしまい,何だ,人はずっとこの30年間1日平均 2.5トリップしかしていない,ほとんど行って帰る2トリップだけだ,ということになってしまうのです.そういうデータをもとに我々は交通計画をやっているわけです.
○中島 例えばホームページの無料プロバイダーでは,最初から利用者の情報を書いてもらって,その情報をマーケティングに利用することを明言しているのです.使う側にしてみれば,ある部分の情報ならば別に提供しても何かいろいろ代わりに無料で利用できるのならば構わないという発想で,ITSの場合もその辺のキャッチボールが必要でしょう.
運営主体の問題もあると思います.警察に対しては最初から個人情報の開示は嫌だということになってしまいます.だから運営主体がはっきりしていて,利用者からみて役に立つ情報であれば,ある程度情報開示しても構わないということです.それはホームページの例からも類推できるでしょう.
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