23 Needs-DrivenなITS

○赤羽 VERTIS注(31)では,9つの分野などに対応していないITSの世界を描いたビデオを作っています.家族4人が,家にいるときにホームページでレストランの検索して,ルートがカーナビに転送されて,乗っている間にコミュニケーションして予約したりとか,VERTISが配っているパンフレットに載せているようなITSのビジョンを,ビデオ化したようなものです.

○倉沢 電気通信技術審議会のITSの分科会が1年半前に出した答申では,その参考資料に2015年の中学校の教科書の形を借りた,ITSが今からやろうとしていることを過去形で書いた文章があります.「あのときはこの程度しかできませんでしたが,今はここまでできるようになりました」といった書き方で全部書かれている.要するに,受け手にとって今のシステムは何なのかということを全部一貫して描ききってみたのです.
 実は1日のストーリーで全部を盛り込むステージはもう卒業しつつあって,次の視点を描くことが必要なのです.ハンドルが格納されると一体何が起こるのかを描くことが重要なのです.かわいらしく未来絵図を描くのは簡単ですけれども,システムを紹介するだけではだめで,のび太とドラえもんのキャラクターがわかってきて,「こういうことが困ったらあれが出てくるだろう」というような話に位置づけられてくればいいわけです.それはITSの個別の技術もそうですし,今ある雑誌情報もラジオの情報も全部そういうことで見えてくる気がします.

○赤羽 実は,このITS研究委員会の最初のかけ声が,Seeds-OrientedからNeeds-Drivenに持っていきましょう,でした注(32).今思い出しました.

○倉沢 交通警察にとってのITSの理想の姿というものを,どこかで明確にする必要があるのでしょう.それが,どれぐらいユーザのニーズからずれているか,ずれていないかを整理していかないと,どこかでつまづくし,逆に交通警察が持っているやる気を大事にしたいですね.大事にしながら,受け取る人がハッピーになるような共通理解みたいなものを醸造し始めないといけません.
 何かが起こっているからここに信号をつけて整理します,というのではだめで,要するに最後にどうしたい,というものがないといけない.日本中コンクリートで埋めた川をつくるのが目的ではなくて,本来は洪水を起こしたくないだけなのだから,もうやらなくてもいい工事はしません,ということを河川審議会でも言い始めているように,ダム行政や道路行政では割とこうした全体像ができかけています.そういう全体像を提示するには,今はいい時期だろうと思います.

○森川 警察が頑なになるのは,何故このようなことをしているのかと市民からお叱りを受けるのが怖いからなのでしょう.だから1つの救いとしては,市民が本当に望んでいることがあらかじめしっかり伝わっていれば,警察も対応するだろうということです.

○赤羽 必ずしも市民の大多数ではなくて,一部の人の声に左右されている部分もあるように思います.もっとオープンな場で,ある人はこういう意見で別の人は別の事情を抱えている,そうした中で交通警察としてはこういう対応します,というような情報の交換や開示が行われると,より建設的な方向に議論を展開できるように思います.われわれの「お上頼み」の部分が,交通の分野では特に交通警察に集中してしまっているところがあります.それを打開する枠組みをつくらなければなりません.

○倉沢 そうなれば,例えば雑誌レベルで表現できるような地図情報,交通情報,目的地情報などのように,情報にもいろいろな広がりが出てくるでしょう.こうした整理だけがブレイク・スルーだとは思いませんけれども,ユーザや企業が自由に振る舞う1つのきっかけになるでしょう.何だ,その程度のことを目指せばいいのか,ということが合意されれば,受け手だけでなくて発信する立場の目標も見えてくると思います.そのうち,受け手のニーズに合うこの手の情報の提供のし方を,何年かかけて磨いてくる人材が必ず出てくるでしょう.別に人を育てることが大原則とも思いませんが,人が育てば「もの」もでき上がるような気がします.

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